当研究室では海洋生物から社会に役立つ化合物・酵素の探索を行っています。さらに発展課題として、それら天然物の生態学的意義の解明にも挑戦しています。
海洋生物からの天然物探索
海綿動物やホヤなどの海洋生物からは、医薬品開発を目的にこれまでに数多くの低中分子化合物が見出されており、それらはがん細胞やウィルスなどに対して極めて低濃度で強力な生物活性を示します。このような生物に何らかの作用を示す物質を“生物活性物質”といいます。当研究室では、沖縄のサンゴ礁域に生息する多種多様な海洋生物を採集し、その中から医薬品や創薬に繋がる物質の探索研究を行っています。2022年からスタートしたプロジェクトとして3つの病気(がん、ウィルス、リーシュマニア感染症)を標的に創薬シーズの探索研究を行っています。
- Takahiro Jomori, Shuji Shiroyama, Yuji Ise, Hisanori Kohtsuka, Kenichi Matsuda,Takefumi Kuranaga and Toshiyuki Wakimoto. “Scrobiculosides A and B from the deep-sea sponge Pachastrella scrobiculosa” Journal of Natural Medicines, 73, 814-819, (2019)
- Takahiro Jomori, Andi Seitawan, Miho Sasaoka and Masayoshi Arai. “Cytotoxicity of new diterpene alkaloids, ceylonamides G-I, isolated from Indonesian marine sponge of Spongia sp.” Natural Product Communications, 14, 1-7, (2019).
- Chie Ishikawa, Takahiro Jomori, Junichi Tanaka, Masachika Senba and Naoki Mori. “Peridinin, a carotenoid, inhibits proliferation and survival of HTLV-1-infected T-cell lines” International Journal of Oncology, 49, 1713-1721, (2016).
- Takahiro Jomori, Takahiro Shibutani, Peni Ahmadi, Toshimasa Suzuka and Junichi Tanaka. “A new isocyanosesquiterpene from the nudibranch Phyllidiella pustulosa” Natural Product Communications, 10, 1913-1914, (2015).
天然物の生合成研究
海洋生物由来の医薬品候補物質が多く報告されてきましたが、それらの多くは生体内でどのように生産(生合成)されるか未解明のままです。当研究室では海洋生物からDNAを抽出し、その中から化合物の設計図である生合成遺伝子を探索し、見出した候補遺伝子を異種生物システムへと組み込み、組換えタンパク質の機能解析を実施していま。天然物の生合成研究は、化合物の複雑な骨格を合成する酵素や、特異な官能基を化合物へと挿入するような新たな酵素の発見にも繋がる可能性があり、天然物の供給量不足の解決策として注目されています。さらにその生物が「なぜ有機化合物を生産しているのか?」という問いに対する答えは謎に包まれていますが、当研究室では生合成酵素の役割を明らかにすることで天然物の生態学的役割の解明へと挑みます。
- Takahiro Jomori, Kenichi Matsuda, Yoko Egami, Ikuro Abe, Akira Takai and Toshiyuki Wakimoto, “Insights into phosphatase-activated chemical defense in a marine sponge holobiont” RSC Chemical Biology, 2, 1600-1607, (2021).